聖書の人物

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 伝道者フィリポ(使徒言行録より)

『フィリポが走り寄ると、預言者イザヤの書を朗読しているのが聞こえたので、「読んでいることがお分かりになりますか」と言った。宦官は、「手引きしてくれる人がなければ、どうして分かりましょう」と言い、馬車に乗ってそばに座るようにフィリポに頼んだ。』(使徒言8・30〜31)

ステファノの殉教をきっかけに、エルサレムの教会に対する大きな迫害が始まった。初めのころ、イエスの弟子たちはユダヤ教の伝統や慣例に従った生活をしており、人びとからはユダヤ教の熱心な一派くらいに思われていたらしいが、ステファノのようにユダヤ教に批判的な信者たちが出てくるに及び、ユダヤ教の指導者たちはキリスト者の運動を大いに危険視するようになったのである。 しかしこの迫害は、かえって教会の伝道活動をエルサレム外の地域に拡大させる結果をもたらした。迫害によって「散って行った人たちは、福音を告げ知らせながら、巡り歩いた。」(使徒言行録8・4)からである。

伝道者ピリポは、イエスの十二弟子のひとり(ヨハネ1・43)とは別人である。彼はステファノと同じ「ギリシア語を話すユダヤ人」で(使徒言行録6・1〜6)、迫害が起こった時はサマリアに逃れたが、そこで伝道して成果をあげた。その後南方に旅するが、その途中、イザヤ書を馬車の中で朗読していたエチオピアの高官に出会う。

「なんじ、其の読むところを悟るか」「導く者なくば、いかで悟り得ん」

この二人の鮮やかな言葉のやりとりの後、フィリポは馬車に乗りこみ、彼にイエスのことを語って(8・35)聖書の真義を悟らせ、キリスト教に入信させた。フィリポには四人の娘がいたが、彼女らも後には伝道に従事するようになったらしい(使徒言行録21.8〜9)。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、「聖書と歴史第6巻」(女子パウロ会)に出てくる挿絵です。
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