- 『ところで、祭りの度ごとに、総督は民衆の希望する囚人を一人釈放することにしていた。そのころ、バラバ・イエスという評判の囚人がいた。ピラトは、人々が集まって来たときに言った。「どちらを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか。それともメシアといわれるイエスか。」』(マタイ27・15〜17)
- ローマ総督ピラトがイエスに十字架の刑を宣告する前、彼は祭りの恒例により、ひとりの囚人を釈放したが、彼の名はバラバと言った。福音書、特にルカによれば、ピラトはイエスがまったく無罪であると認めたので、イエスの方を釈放しようとした。しかし群衆は怒涛のような声を挙げ、「その人を殺せ。バラバをゆるしてくれ」と言った。こうしてついに、その声が勝ち、ピラトは彼らの願いどおりにすることを決定したのである。
- バラバについて他の福音書には、「暴動を起こし、人殺しをしてつながれていた暴徒」(マルコ15・7)、「都で起こった暴動と殺人のかどで」囚人となっていたもの(ルカ23・19、25)「強盗であった」(ヨハネ18・40)とある。いずれにせよ、かくれもなき評判の悪党であったらしい。
- しかしこの男は、イエスが十字架の刑に処せられることによって、実際に自分のいのちを助けられた最初の、唯ひとりの人間となった。彼はイエスと何の交渉もない男であった。また、死刑の運命をまぬがれ、自由の身となった後どうしたかという消息もまったくわからない人物である。だがイエスは、十字架にかかって死ぬことにより、少なくともこのバラバのいのちだけは救った ―― そう言って差し支えない。「それはだれにも否定できない事実であった」(ラーゲルクヴィスト「バラバ」)。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)
- この絵は、「イエスと出会う ― 福音書を読む」オリエンス宗教研究所/教文館という本の中にある挿絵です。
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