聖書の人物

(65)

放蕩息子の兄(ルカ福音書より)

『しかし、兄は父親に言った。『このとおり、わたしは何年もお父さんに仕えています。言いつけに背いたことは一度もありません。それなのに、わたしが友達と宴会をするために、子山羊一匹すらくれなかったではありませんか。ところが、あなたのあの息子が、娼婦どもと一緒にあなたの身上を食いつぶして帰って来ると、肥えた子牛を屠っておやりになる。』』(ルカ15・29〜30)

放蕩息子が戻ってきたとき、兄は畑で働いていた。夕方帰宅すると家の中から音楽や踊りの音が聞こえたので、これはいったい何ごとかと召使いに問うと「あなたのご兄弟がお帰りになりました。無事に迎えたというので、父上が肥えた子牛をほふらせ、祝いの御馳走をしているところです」とのことであった。激昴した兄は家に足を入れようとしなかった。そこで父が出てきてなだめると、彼は父に向かって日ごろのうっぷんを一度にぶちまけたのである。

「あなたのあの息子が、娼婦どもと一緒にあなたの身上を食いつぶして帰って来ると」という兄の言葉には、自分の弟に対する愛情はひとかけらも感じられない。この兄はまじめな男であったかもしれない。だが彼のまじめさには冷やかな独善と排他の心棒が通っており、要するに彼は打算的な人間であった。こういう一見まじめな男よりも、悔い改めた放蕩息子の方がずっと真実味のある人間だという、イエスの幅ひろい人間観がここに見られる。

このたとえ話は、当時の宗教家たちに対するイエスの皮肉として語られたものであるが(15・1〜3参照)、今日のきまじめなキリスト教徒にとっても頂門の一針(痛切な戒め)となろう。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、「イエスと出会う ― 福音書を読む」オリエンス宗教研究所/教文館という本の中にある挿絵です。

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