聖書の人物

(63)

乞食のラザロ(ルカ福音書より)

『ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた。この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけの貧しい人が横たわり、その食卓から落ちる物で腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやって来ては、そのできものをなめた。』(ルカ16・19〜21)

乞食のラザロは、ルカ福音書にしるされたイエスのたとえ話の中に出てくる架空の人物である。しかしイエスのたとえは日常生活そのものから取られているので、このラザロのような乞食が当時のパレスチナには数多くいたと考えられる。

このたとえでは乞食ラザロのみじめさが具体的な表現で強調されている。どうしてこのようなあわれな境遇におちいったのか、その理由はしるされず、これからどうしようとしているのかも全くわからない。彼には信仰もなく、人々に助けを乞う力すらない。彼は孤独であり、全身いやなでき物におかされていて臭気を発している。人間的には何のとりえもなく、悪病にかかった老犬のように、みにくい姿で道のかたわらに捨てられて死ぬ他ない男であった。

だがイエスによれば、この男こそが、無条件的に何の疑念もなく、そのままの姿で「御使たちに連れられて」天国に迎え入れられる。そして、生前はぜいたく三昧に暮らしていた金持は、とくにこれといって大きな罪悪を犯したわけではなかったけれども、死後は地獄に直行し業火の苦しみに喘ぐという(16・22以下)。

これは、貧乏人と金持の運命はあの世では入れ替わるのだといったお話ではない。むしろこのたとえが示すものは、この世における貧富の隔絶という構造悪に対する、イエスの憤激の情であり、極貧の人々への一方的な愛であろう。(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

この絵は、テリエンの聖書物語の挿絵の一部です。

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