聖書の人物

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サマリアの女(ヨハネ福音書より)

『イエスは言われた。「『夫はいません』とは、まさにそのとおりだ。あなたには五人の夫がいたが、今連れ添っているのは夫ではない。あなたは、ありのままを言ったわけだ。」』(ヨハネ4・17〜18)

サマリア地方のシカルの町に、ひとりの女が住んでいた。彼女は生来、だらしのない女であった。日ごろの生活もまわりの人と歩調をあわせず、ねむいときには昼ちかくまで寝てすごすようなこともあったが、女としての彼女の致命傷は、その結婚生活のだらしなさにあった。彼女は五度も結婚し、そして離婚していた。正当な結婚にはもはや飽きてしまい、いまは正式の夫ではない、ある男と同居して暮らしていた。

ある朝・・・と言ってももう正午に近かったが、彼女はねぼけた顔をして起き上がり、いつものように水がめを頭にのせて、井戸へ水をくみに出かけた。彼女が井戸につくと、そのかたわらにひとりの旅人が静かに腰をおろしていた。女は彼にはまったく無関心に水をくみ、だまってかめに注いだ。すると急に、その旅人が口を切って言った、「すみませんが、水をいっぱい飲ませてくれませんか」。女はあらためてその男をしげしげと見つめた。彼はユダヤ人と見受けられ、長旅につかれた様子で、衣はまっしろにほこりをかぶっていた。「あなたはユダヤ人のくせに、どうしてサマリアの女のわたしに水を求めるのですか。私たちはおたがいに交際をしないことになっているのではありませんか」。“ざまあ見ろ”と彼女は思った。当時サマリア人はユダヤ人から軽蔑され、差別されており、サマリア地方を通って旅するユダヤ人はまれであった。だからこの男には、思いきり疲れと渇きを経験させてやりたかった。

だが、このふしだらで意地の悪い女に一杯の水を乞うたユダヤ人は、サマリアの道を選んで旅していたイエスであった。そして、「水を飲ませてください」という彼の願いから発した彼女との対話は、彼女の過去と現在に横たわる暗い男性関係にまで及ぶ。その結果、生活の泥沼を指摘された彼女は、それと同時に、ユダヤ人のサマリア人差別の根幹にある宗教的問題に関する、あの有名なイエスの宣言を聞く最初の人となったのである。「神は霊である。だから、礼拝する者は、霊と真理をもって礼拝しなければならない。(ユダヤ人が主張するエルサレムの神殿でもなく、またそれに対抗してサマリア人が主張するゲリジムの山の神殿でもないところで、人々が真実の神を礼拝する新しい時がいま来ている)」(4・19以下参照)(佐伯晴郎著「聖書の人々」より)

写真は、イエス様がサマリアの女とであった『ヤコブの井戸』と言われるもので、現在はそれを守るように『ヤコブの井戸の教会』が立っている。

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